尾張の殿様列伝


はじめに

「まちおこし」の先駆けともいわれる名古屋まつりの郷土英傑行列。最近では本丸御殿の完成も近いとあって、一段とにぎわいを増しているようだ。けれども見物する市民のほとんどは、三英傑の名前はすぐに言えても、「では、その後の尾張藩の殿様は?」と訊かれると、首をひねってしまう。これが白虎隊の悲劇で知られる会津だったら、どうであろう。保科正之や徳川(かた)(もり)の名前が、たちどころに出てくるに違いない。

といって、名古屋の人々が郷土愛に欠けているというわけではない。昨今では八代将軍吉宗の超緊縮政策に反発し、いっとき元気名古屋≠演出した、あの七代藩主宗春を「NHKの大河ドラマに!」と、猛運動を展開している「ロマン隊」もある。でも、それぐらいではいかにも寂しい――。そこで思い立ったのが、浅学を顧みず『尾張藩主の列伝』の執筆であった。

『武士の家計簿』で売り出した新鋭の歴史学者、磯田道史氏の新著『殿様の通信簿』によると、「江戸時代の殿様をみていると、現代をみているような感にとらわれることがある。現代社会に通底する大切なことが、ちらちらとみえる」とか。まことに同感である。

十数代に及ぶ尾張藩の殿様の中には、宗春のほかに藩の中興の祖九代(むね)(ちか)や、名古屋を戦火から救った十四代(よし)(かつ)のように、天下に誇れる名君がいたかと思えば、幕府からの押し付け藩主のようなバカ殿もいる。したがって、やや手前味噌だが、一種の「リーダー論」として、この本に眼を通していただくのも、一興であろう。

内容は、平成二十五年六月から九ヵ月にわたって中部経済新聞に連載した『尾張の殿様列伝』を時系列的に書き改め、補筆したものである。連載・刊行に当たっては、同社編集局長の後藤治彦氏および荒井伸、堀田義博の両氏をはじめブックショップマイタウンの代表舟橋武志さんや、碩学の諸氏に大変お世話になった。心からお礼を申し上げたい。

 

 平成二十六年○月 

              藤澤 茂弘



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