モノづくり


はじめに

日本が世界に誇るリニア中央新幹線。計画通り二〇二七年から開業され、東京―名古屋間が四十分で結ばれることになると、日本のモノづくりのメッカ、中部地方にとっては、さらに大きく躍進するチャンスとなるに違いない。

この地域の生産量が日本一を誇るのは、名古屋港で扱う貨物量や外国貿易の額、さらには完成自動車の輸出台数のどれをとっても年々、横浜、東京、大阪、神戸の各港をはるかに引き離している事実でも、実証されよう。

 では、同地域がなぜこれほどまでに発展したのか。理由はいくつか挙げられる。

まず地の利だ。背後の深い山々から流出する木曽三川が肥沃な濃尾平野を育み、豊かな農産物を産出する。また日本の中央部に位置し、古来から東西二つの大都市圏を結ぶ交通の要衝でもある。気候も温暖だ。

さらに、木曽の美林は、どれほど地域の壮大な建築物や造船、家具類をつくるための貴重な資源となったか知れない。

一方、人材の面はどうであろう。三英傑は措くとしても、トヨタを今日の世界的大企業に育てた経営者の一人、豊田英二が「モノづくりは人づくりである」と喝破しているように、近来多くの秀逸な人材が育てられ、各方面で目ざましい活躍をしている。

 といって、中部の産業が初めから順風満帆の道を歩んできたわけでない。ときに大洪水や地震、旱魃などの自然災害や戦火に襲われ、ことに昨今では円高や途上国の追い上げによる輸出の減少、あるいはリーマンショックや長期デフレによる不況――等々、幾多の困難が押し寄せ、打ちひしがれたときもあった。

 しかし、そのいずれも堅実を旨とし、しかも機を見て果敢に行動する先人たちのDNAを引き継いだ知恵とド根性、そして何よりも力強い技術力を持って乗り越え、再び「元気ナゴヤ」を取り戻そうとしている。

 これまで中部の産業史をつづった著作は数えるほどしかない。しかも財界中心であった。そこで、この連載は大企業を支え圧倒的に数の多い中小企業にも光を当て「モノづくり王国」の歩みと、先達の奮闘の足跡をたどりたい。今後の飛躍の糧としていただければ、幸いである。(文中敬称略)



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