朝、メダカにえさをやろうとホテイ草の葉をかき分けると「ポシャーン」とカエルが慌てて水中に飛び込んだ。
「ふむ。元気でいるな」
私は満ち足りた気分になって、しばらく小さな池の前にしゃがみこむ。
ホームセンターへ行けば、樹脂製のかっこいい「ひょうたん池」を売っている。が、高価で手が出ない。そこで思いついたのがプラスチック製の衣類入れ。一抱えありそうなのを買ってきて庭の隅に埋め、周囲に草を植えたら見た目も結構なミニ池に変身した。
実は、六畳間ほどしかない庭の真ん中に、一畳そこそこのコンクリート池をつくったのは、二十年も前のこと。ひどい手抜き工事で、スコップで穴を掘り、足で土を踏み固めた上に防水材を入れてあるとはいえ、コンクリートを塗っただけの代物だったから三年も過ぎると水漏れをし始めた。
朝起きて見ると、干上がった池の真ん中に幼いコイが数匹、恨めしげな目をして息絶えている。
それ以後、私は年になんど念仏を唱えながら、コイや金魚を葬ったことやら。池の修理材を買ってきて、穴の開いていそうな箇所を塗りたくったり、ときには防水を目的にクルマの塗料の補修液を吹き付けたりもした。
「あなた。水道代や浄化ポンプの電気代だってばかにならないわよ」
山の神の苦情もものかは、意地になって私は修理をつづけた。そしてコイや金魚、メダカの飼育はもちろん、夏になって池で育ったカエルが毎晩ゲロゲロ鳴くのを無上の楽しみとした。
ところが、しだいに漏水がひどくなるばかりか、池の魚をねらってネコがしのんで来たり、近隣に出没するアライグマにも襲われるはめとなって、とうとう私は池を埋める決心をした。
私がそんなに池にこだわったのは、わが家の近辺にあれほどあった田んぼが最近ほとんど姿を消したこと。当然カエルやメダカの棲家がなくなる。ミニ池なりと彼らの生存の助けになれば……の一念もあったからである。
そんな事情もあって、この春に池をつぶしたあと、代用の池を設けたのだが、ここで卵が産み付けられ、オタマジャクシから見事カエルが育ったときには、飛び上がるほどうれしかった。
老境に至って、小動物のイノチにもひとしおいとおしさを感じるようになった、きょうこのごろだから、なおさらである。
二十二年十月に名古屋市内で開かれるCOP10(生物多様性条約10回締結国会議)。この会議の趣旨に沿って私も陰ながら一役買いたいものと願っている。